【Power BI】Adobeの"ガチ"ダッシュボードをリバースエンジニアリングしてみる-その1-
3月26日から米ラスベガスで行われていた「Adobe Summit」。その基調講演の中で、Adobeが実際に社内で使用しているダッシュボードが披露される一幕があったようです。そのダッシュボードを詳しく分解してみることで、Adobeが自分たちのビジネスをどのように捉えているのか理解し、自分の業務の参考にしたいと思います。
これはガチ社内ダッシュボードらしくDDOM(Data Driven Operating Model)に基づいた顧客のカスタマージャーニーの可視化。
— Go Ando / THE GUILD (@goando) 2019年3月26日
隣に座っていたAdobe社員の方が「見せるんだ...」と驚いてたのが印象的。#AdobeSummit
基本構成
普段Power BIでレポートを作っている身としてとても参考になります!シンプルながら、要素が整理されていて使いやすそう。。 https://t.co/QfOv19ANtf
— virgilvd (@virgilvd1) 2019年3月27日
Twitterを中心に投稿されているAdobeのダッシュボード写真を漁ってみてみると、どうやらAdobeはカスタマージャーニーのステージ毎のレポートとそのサマリーレポートを作成しているようです。同社が捉えるカスタマージャーニーは、「Discover」「Try」「Buy」「Use」「Renew」の5つのステージで、要するに「発見して」「無料体験して」「購入して」「使用して」「再契約する」という流れを想定していることになります。
I think @Adobe is convoluting the customer “Journey” with a customer “lifecycle.” An “End to End Journey” that starts with a “Discover” phase is actually a lifecycle (composed of multiple smaller journeys). #AdobeSummit #CX #CustomerExperience pic.twitter.com/7KQgDsCTKW
— Ryan Hart (@RHartCX) 2019年3月26日
「Try」と「Renew」に関しては、サブスクリプション型でソフトを販売している Adobeだからこそのステージだと思いますし、「Use」がジャーニーとしてしっかり入っている所に顧客視点を大事にする様が感じられます。購入してくれた顧客が製品をどれくらい使っているか(=気に入っているか)ですが、ついつい売上げだけに目を向けてしまうと忘れてしまう大切な視点です。
サマリーページ
それではダッシュボードのメイン、サマリーページを見てみましょう。サマリーページの構成要素は下図の通りで、大きく4つに分かれていました。(※ここからは個人の主観と推測が多く含まれてしまいますが、ご容赦ください)
1.フィルター
画面上部に存在しているのが、データの範囲を規定するフィルターだと思われます。Power BIのデフォルトのビジュアルで言えば「スライサー」だと思うのですが、見た目が少し違うので独自で開発していそうです。
フィルターの項目は、「Quarter」「Geo」「Market Area」「Route to Market」「Segment」「Subscription Offering」「Product Category」の7種類。「Quarter」は対象となる期間、「Geo」は「ASIA」という属性が選ばれていたので地域のフィルターだと思われます。「Segment」は恐らくその名の通りセグメントだと思われますが、「Digital Media」が選択されている写真があったので他にも「EC」や「コーポレートサイト」なんかがある気がします。このダッシュボードの対象に、イラストレーターやフォトショップなどのクリエイティブ系のツール群も含まれるのであれば、より幅広いセグメントがありそうです。
「Product Category」に関しては、完全に推測ですが、Adobeはイラストレーターやフォトショップなどが含まれる「Creative Cloud」と、Adobe Analyticsを始めとするマーケティングツール群が含まれる「Marketing Cloud」の大きく2種類を販売しているので、これらを分けるものだと思われます。
残りの「Market Area」「Route to Market」「Subscription Offering」は、「Market Area」は「Geo」の更に一つ下の粒度で地域を分けるものだと推測できますが、「Route to Market」「Subscription Offering」に関しては(英語力がないので)全く予想も付きません。これら2つが何を意味しているのか分かるor推測できる方がいらっしゃいましたら教えて頂きたいです。
2.主要KPI
このエリアで見ているのが、ビジネスの総論部分です。現状がマルなのかバツなのかを「Net New ARR」「Gross New ARR」「MAU」「FP Renewal & Upsell ARR」の4つの指標で評価しています。用語について調べてみると「ARR」は、Annual Recurring Revenue(年間定額収益)の略で、要するに月額〇〇円や年額〇〇円などのサブスクリプション契約でもたらされる収益を表しています。この指標には、Newがついていることから当期に新規で獲得した契約の見込みの収益を表しているのではないでしょうか。ちなみにNetとGrossはそれぞれ純売上高と総売上高を意味しています。
「MAU」はMonthly Active Users、月に一度でも該当サービスを利用した人数を表しています。前述したAdobeの考えているジャーニーの中に「Use」が存在しているのもそうですが、やはり契約者が使っているかを非常に重視していることが垣間見えます。ユーザーに利用してもらえなければ次の契約は結んでもらえないので、当然と言えば当然なのですが。
「FP Renewal & Upsell ARR」のFP部分が何を意味しているのかは分かりませんが、恐らくこの指標は、当期の契約更新と上位ライセンスへの移行による利益を表していると思われます。Adobe Summitのダッシュボードはサンプルデータとのことですが、この指標は「Net New ARR」「Gross New ARR」と比べても桁違いに多く、Adobeのビジネスにおいて如何にここが大切かを物語っています。「MAU」や「Use」といった指標を大切にする意味もきっとここにあるのでしょう。
こういった指標たちは共通して上図のフォーマットで表示されています。この表記の仕方は、4のカスタマージャーニーに沿ったKPIやサマリーページ以外のKPIでも同様となっていました。上図のカッコ内が自分が推察した指標の意味となりますが、財務系の知識はあまりないので間違っていたらご指摘頂ければと思います。
念の為どのように推察したか記載しておくと、一番上の「QRF」が「Quarter Rolling Forecast」、「Q/Q TY」が「Quarter / Quarter This Year」、「Q/Q LY」が「Quarter / Quarter Last Year」、「Y/Y」が「Year / Year」の略と考えています。
この部分のビジュアルは、「カード」や「複数のカード」を組み合わせて表現していると思います。
3.主要KPIの週別推移
このエリアに関しては、2の主要KPIの週別推移を棒グラフと折れ線グラフの混合グラフで表現しています。グラフ上部のフィルター(スライサー)によって、「Net New ARR」「Gross New ARR」「MAU」「FP Renewal & Upsell ARR」の4つの指標を切り替えられるようになっているようです。折れ線と棒が具体的に何を表しているかまでは分かりませんが、恐らく先に出ていた指標「予算」「前年の値」「前期の値」を表示させているのだと思います。
個人的には、フィルターによってグラフの中身を丸っと変えるやり方は斬新でした。これが出来るということは、きっとデータを全て縦に持っているのでしょう。今度試してみます。
最後に、4番のエリアを見ていこうと思いますが、文量が多くなって来たので次回に持ち越します。次回はカスタマージャーニーに沿ったKPIと合わせて、それぞれのKPIを深掘ったページも見ていこうと思います。
戦術や分析に関して、こういう見方もあるよ、こうして見た方がいいよ、などご意見等ありましたら、コメントで教えていただけると幸いです。ぜひよろしくお願いいたします!