サッカーを通じて観戦力と分析力を上げていくブログ

基本的にはサッカー×データに関して試してみたことをまとめています。最近はもっぱらPythonを使った可視化中心。時々自分の好きなガジェットも。

【データ可視化】JクラブのPL周りの数字を可視化してみる-費用・利益編-

前回の収益編に引き続いて、今度は各クラブの費用と利益について可視化していきます。

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使用するデータ

前回同様3年分(2016-2018)の「Jクラブ個別経営情報開示資料」を使って可視化していきます。この資料はJリーグ公式サイトで一般公開されているもののPDF形式なので、Microsoft社製のBIツール「Power BI」を使ってデータ化して可視化します。やり方については下記をご参照ください。 

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Jクラブの費用2018年度全体像

収益と同じ形式で見ていきます。まずはディビジョン別の推移から。

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J1とJ2が年々増加傾向にある中、J3は現状維持。これと前回可視化した収益から、利益を算出してみると以下の結果に。

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J1が平均1.7億円の利益に対して、J2が1000万とかなりの格差。J3に至っては1700万円の損失となっています。J3では収益の大半がスポンサー収入でありながら営業利益(=本業での利益)が赤字となっているところに、下部リーグの厳しさを感じます。ちなみにJ1とJ2で2017年に大きな変化があるのは、かなりの売上規模を誇る名古屋がJ2に降格したことがその一因だと思われます。

クラブ別に費用を見てみると、並び順としては収益とほとんど変わらないことが分かります。

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<参考>2018年収益

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一見すると各クラブ稼いだ分だけ使っているように思えるのですが、利益で見てみるとその並び順は大きく変化します。ディビジョンに関わらず赤字のクラブが半数近く存在。J1の平均利益も一部のクラブが引き上げていることが確認できます。

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神戸の利益が大きすぎて見辛いので、ディビジョン別に見てみます。

J1

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こうしてクラブ別に見てみるとかなりの差があります。平均すると1.7億円の営業利益も、神戸を除くと約4000万円まで下落。半数近くが損失を出しており、億単位の利益を出せているのは(3月決算3クラブを除く)15クラブ中6クラブしかありません。また、大きな利益を上げているクラブの中にも、親会社からのサポートを受けているパターンもあり(例えば神戸の楽天や川崎の富士通など)、自らの稼ぎという意味合いでは更に少なくなりそうです。

驚くべきは浦和レッズで、75億円もの収益を上げていたクラブが利益となるとわずか900万円と損失ギリギリの値となっています。

<参考>スポンサー収入

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J2

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続いてJ2を見てみると、こちらは思っていたより赤字クラブが少ない印象です。J2平均では1000万円の利益でしたが、どうやら新潟が押し下げていたようで、新潟を除くと2200万円まで回復します。新潟はJ1から降格したことで、コストと収益のバランスを保てなくなったことが推察されます。利益だけでみると千葉、岐阜、京都といった近年J1に上がっていないクラブが、J1中位並みの利益を出しているのは面白いですね。昇降格が少ないクラブの方が利益は出しやすいのかも知れません。

J3

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最後にJ3を見ると、こちらはほとんどのクラブが損失を計上しています。J3は入場料収入やJリーグ配分金、物販収入がそれぞれJ2の10分の1程度の水準のため、ある意味で仕方ない気がします。ここに関しては、リーグ全体でJ3を盛り上げていく必要があるように感じます。

 <参考>ディビジョン別収益項目推移

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営業費用の内訳

ここからは営業費用を深掘りしていきます。各クラブが何にお金を使っているのかを確認したいと思います。まずは大きくディビジョン別に見てみると、どこもチーム人件費と販管費で75%近くを占めていることが分かります。

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J1とJ2はどちらも金額順に「チーム人件費」「販売費および一般管理費」「トップチーム運営経費」「試合関連経費」「物販関連経費」「アカデミー運営費」「女子チーム運営費」となっています。一方でJ3のみ順番が異なり、販管費とチーム人件費、アカデミー運営費と物販関連経費がそれぞれ入れ替わっています。

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いくつかの項目で推移を見てみると、このような形になります。細かい項目が分からないので何とも言えませんが、J1とJ2は利益が出ているのでチーム強化に年々投資できている一方で、J3は現状維持といった印象を受けます。

Jクラブの費用2018年度詳細 - チーム人件費・収益/人件費比率

J1

ここからは各項目についてクラブ別に詳細を可視化していきます。まずはJ1から。

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チーム人件費の伸び率に着目してみると、神戸、鹿島、鳥栖、名古屋あたりが目立ちます。神戸と鳥栖は言わずもがな、鹿島は内田、名古屋はジョーや長谷川アーリアジャスールらを獲得したことによる影響かと思われます。

収益の内どの程度をチーム人件費に使っているのか(チーム人件費/営業収益)を見てみると、浦和や鹿島、川崎あたりは意外と低い数値に収まっています(収まるように親会社から補填されていたりもするそうですが)。

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デロイトが毎年発表する「Jリーグマネジメントカップ」によると、クラブの方針次第のためこの指標の優劣を決める基準は無いとのことですが、50%が一つ目安となるそうです。そういった意味だと鳥栖は62%まで上昇しており、今後この投資に見合う成果を出す必要がありそうです。

J2

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ここからはY軸をJ1と比べて半分以下に調整しています。基本的にチーム人件費が年々増加傾向にあるものの、京都だけは毎年減少中。意図的に減らしているように見えるのですが、何か事情があるのでしょうか。2018年でみると金額的には大宮が飛び抜けており、余力がある内にJ1に上がりたいところでしょう。

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営業収益/チーム人件費比率で見てみると意外にも大宮はそこまで高くなく、収益の大きさが伺えます。

J3

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Jクラブの費用2018年度詳細 - 物販関連経費 ・利益

次は物販関連経費と利益について見ていきます。

J1

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収益同様伸びているのが鹿島、川崎、神戸あたり。鹿島と川崎はそれぞれACLとリーグ優勝があったため、その記念グッズで収益が伸びているのでは無いかとのことですが、同じ理由で経費も増えていそうです。

物販収入から物販関連経費を引いた値を利益として見てみると、断トツで稼いでいるのが浦和レッズ。4億近くの利益を出しており、ますます営業収益の少なさが謎ですね。

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J2

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J2だけでみると、J1経験クラブの経費の多さが一瞬で見えてきます。その一方で利益でみると松本山雅が急激に成長していて、物販だけで見ればJ1でも上位の額になります(委託販売はここに入らないので、純粋比較できないのですが)。サポーターやファンが熱狂的・模範的なことで有名な松本山雅ですが、クラブへの貢献という点でもかなり良いサポーターと言えそうです。

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J3

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J3はここでも格差が出てしまっています。平均利益が約800万円で、損失を出しているクラブもチラホラ。全ては下部リーグにおけるファンの少なさに起因するので、やはりリーグ全体として手を打たないと厳しいように思えます。

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おまけ

浦和の利益の少なさについて。今回販管費に関しては中身がブラックボックスなのであまり見ても分かることが少ないと思って省きましたが、どうやら浦和はこの費用が圧倒的に多いようです。一般的にはスタッフの給料や役員報酬、広告宣伝費や減価償却費が含まれていますが、その内訳はこの資料だけでは分かりませんね。

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以上、費用・利益編と称していくつかの項目を可視化して見ました。個人的には、J1の中でも限られたクラブだけが収益をしっかり上げられているという現実を知ることが出来て良かったです。

戦術や分析に関して、こういう見方もあるよ、こうして見た方がいいよ、などご意見等ありましたら、コメントで教えていただけると幸いです。ぜひよろしくお願いいたします!